いつも誰かがそこにいて、
ゆるやかにつながれる場所をつくりたい

NEIGHBOR FOOD PLACEの運営を行っているのは、“だれもが、まるごと受けとめられる社会”を目指し、10年以上にわたって八千代市内を中心に地域づくり事業を続けている「NPO法人わっか」。米本団地や地域の課題と、立ち上げストーリー、そしてNEIGHBOR FOOD PLACEのこれからまで、わっか理事長の宮本亜佳音さんに話を聞きました。

孤食とフードロス、地域の課題を掛け合わせて解決する

宮本さんが、NEIGHBOR FOOD PLACEのある米本団地と深く関わるようになったのは、困っている人と有償ボランティアをマッチングするサービス「ゆいのわ八千代」を始めた2017年にさかのぼる。

「ゆいのわ八千代は、買い物支援をしたり、粗大ゴミを出したり、30分500円で簡単なお手伝いをするサービスですが、米本団地は年間500枚から600枚ほどチケットが使われる、市内でもニーズの高い場所でした。勝田台駅からも離れていて、とくに数年前コミュニティバスが廃止されてからは、買い物に行くのに困っている高齢者がたくさんいたんです」

もうひとつ、自治会や地域の方と話をするうちに見えてきたのは「食」の問題。親が仕事で家にいないため孤食になってしまう子どもや、ご飯が十分に食べれらない子どもがいることに気づいた。

また、わっかでは、八千代市の農業士が立ち上げた「やちよリーダーファーマーズ」と一緒に「八千代農業の輪共同企業体」をつくり、米本団地から国道16号を挟んだところにある「道の駅やちよ」の指定管理も行っている。同施設の運営を通じて、天候の影響などで豊作になると需要が追いつかずに価格が下がってしまう、いわゆる「豊作貧乏」の現状を見てきたし、そもそも八千代の人が地元野菜をどれだけ知っているのかという疑問を感じるようになった。

「八千代の農家さんって、お米もつくっているし、野菜も果物もあって、お肉以外すべて地元のものでご飯ができてしまうくらい。なのに、地産地消率がすごく低いんです。市街地と農村地域が分断されていて、その恵まれた環境に気づいていないのは、すごくもったいないと感じていました」

2021年からは、八千代の農業を持続可能なものにするため、農家が売り場へ野菜を届けなくても販売者が集荷して買い取り、市内のさまざまな場所で買えるようにする「ヤオマル」というプロジェクトも行っている。

「すぐ近くにたくさんの野菜があって、天候によっては捨てられているものもあるのに、団地の中にはご飯が食べられない子どもたちがいる。この2つの地域の課題を、うまく掛け合わせることで解決できるのでは、と考えるようになったんです」

団地の中と外をつなぐ、新しいコミュニティづくり

「食」をハブにして、地域コミュニティを活性化できないだろうか。米本団地内にある、かつて銀行だった建物の活用について、宮本さんが相談を受けたのは、ヤオマルの立ち上げを進めていた2019年のこと。

「団地の中だけではパイが限られているので、持続していくことを考えると、ただ飲食店をつくるだけではなく、他にも事業の柱がなければ難しい。ただ私たちには農家さんの野菜という強みがあるので、野菜やお弁当、お惣菜を売ることができれば可能性はあると感じました」

地域の人たちにヒアリングをしてみると、「高齢者だけではなく、若いママたちも気軽に使える場所にしてほしい」という要望があった。団地内には幼稚園や保育園もあって、外から通ってくる子ども多い。さらに、「子どもの面倒を見てあげたい」と考えている高齢者や、そうしたつながりを求めているママも多いことがわかった。

「米本団地って、真ん中に広い並木道があって、つくりがすごく豪華なんです。『ここはシャンゼリゼ通り?』なんて言っていた人もいるくらい(笑)」

宮本さんがそう話すとおり、かつて団地は高嶺の花。当時から住み続ける人たちは今も、昔のキラキラしたイメージを持ち続けていて、またあの頃のようににぎわってほしいという想いが強い。

「子どもから高齢者まで、せっかく多世代の人たちが集まっているのに、団地の外と中がうまくつながっていない。昔は、団地の中で遊ぶのは安全でよかったと思うのですが、今は子どもの数も減ってしまって、どこか取り残されているような雰囲気もあって……」

いろいろな世代の人が暮らしやすいと感じる新しいコミュニティを、どうやってつくっていくか。高齢者や子どもを地域で見守りながら、どうやってフォローしていくか。何度も話し合いを重ねて、徐々にNEIGHBOR FOOD PLACEの構想は形になっていった。

無理にマッチングするのではなく、自然と交流が生まれるデザインを

こうして、2022年5月にオープンを迎えたNEIGHBOR FOOD PLACE。かつて銀行の窓口だった通りに面したスペースにはレストランと八千代野菜の販売、ほかにもお弁当やお惣菜をつくる広い調理スペースを備えている。

「無理にマッチングするのではなく、自然と交流が生まれるようなデザインをしたいんです。お客さんが『この野菜おいしいね』とか『どうやって料理したらいいのかな』と話していたら、そばにいたおばあちゃんが『郷土料理はこうやってつくるのよ』なんて教えてくれるような」

NEIGHBOR FOOD PLACEは、あらゆる世代がターゲット。ランチを食べているおばあちゃんもいれば、子どもと一緒に本を読んでいるお母さんもいるし、午後は幼稚園のママたちが情報交換していたり、夕方にはひとりでフラッと飲みにくるおじいちゃんがいたり。そこに行けばいつも誰かがいて、団地の中の人と外の人がゆるやかにつながれる場所を目指している。

「朝どれの新鮮な八千代野菜が買えて、その野菜を使った料理が食べられて、家でも料理ができる。さらに、お客さんの反応をフィードバックすれば、農家さんも喜んで野菜をつくってくれる。〈買う→食べる→つくる〉3つのサイクルがぐるぐる回っていくといいなと考えています」

わっかでは、売れ残った野菜をお惣菜にして宅配する「ヤオマルお惣菜おとどけ便」というサービスもスタート。代金の一部は、生活が苦しい家庭に野菜や文房具などを贈る「フードパントリー」活動に使われている。同じように、NEIGHBOR FOOD PLACEでも、利用したお客さんがご飯を食べたい誰かにごちそうできる仕組みをつくりたい、と宮本さん。

「フードパントリーではレトルト食品しか届けられませんが、NEIGHBOR FOOD PLACEなら、みんなに温かいご飯が食べてもらえる。将来的には、今は仕事があって子どもと一緒にご飯が食べられないという人たちが、ここで働けるようになったらすてきですね」

宮本亜佳音

宮本亜佳音(みやもとあかね)

NPO法人わっか 理事長

1982年八千代市出身。4人の男子の母。多様性を認め、違いを尊重し合いながら共に生きる共生社会の実現を目指し、2011年任意団体わっかを発足、2016年NPO法人化。地域コミュニティづくり、子育て支援を中心に活動の幅を広げている。

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