あらゆる世代がいきいきと暮らせる
「ミクストコミュニティ」の実現を目指して

「美味しいシェア」をコンセプトに地域に新たな交流を生み出す「NEIGHBOR FOOD PROJECT」は、なぜスタートしたのか。NEIGHBOR FOOD PLACEの建物所有者で、プロジェクトの企画を手がけた日本総合住生活の野村さんに、米本団地が抱えている課題や、食を通じて実現したいコミュニティ像について聞きました。

米本団地が抱える食とコミュニティの問題とは

千葉県八千代市にある米本団地は、日本住宅公団(現在のUR)によって開発され、1970年に入居がスタートした、住棟数106棟、全3020戸からなる郊外型の団地だ。野村さんが勤める日本総合住生活は、URのグループ企業で、日本全国にあるUR団地の維持管理や価値向上、コミュニティ形成などを行っている。

「昭和40年代には、米本団地と同じように、駅から離れた場所に巨大な団地がたくさん建てられました。そうした団地にとって現在、空き家や高齢化は共通の課題です。また、NEIGHBOR FOOD PLACEがある建物には、もともと千葉興行銀行 米本支店が置かれていましたが、2018年に撤退してからは空き店舗になっていて、その活用方法も検討していたんです」

遊休資産を活用して、高齢化した団地のコミュニティを活性化できないだろうか。まずは、団地住民にアンケートやヒアリングを行い「どんな施設があったらいいか」とたずねてみると、「気軽に集まれる場所」「食べ物が買える場所」という要望が多かったそう。

米本団地は端から端まで歩くと10分以上かかるほど広大で、駅からも離れ、徒歩圏に大きなスーパーや飲食店が少ない。団地住民の半数は60代以上で、エレベーターのある建物はなく、買い物に行くのもちゅうちょしてしまうほど。さらにコロナの影響もあって、健康的な食事をとることができない人が多くいることもわかってきた。

「友人と集まったり、散歩の途中に休憩したりしたくても、駅前まで出ていくか、外のベンチで話すことしかできません。しかも、住民の約半数がひとりで食事をとっていて、誰かと一緒にご飯を食べたいけれど食べる人がいない、時間や場所が合わないという意見も多くありました」

サードプレイスよりも、もっと近くて気軽な、みんなの居場所

さまざまな検討を重ねる中で出会ったのが、地域で長くコミュニティ活動を続けていたNPO法人わっかの宮本亜佳音さん。宮本さんはちょうど、数年かけて地域の農家さんとのつながりをつくり、売れ残った野菜などを使って地域を元気にする「ヤオマル」の事業をスタートしたばかりだった。

「最初はリーシング(賃貸)することや、普通の飲食店をつくることも考えましたが、何度も足を運ぶ中で、私たちも八千代の野菜の魅力を知りました。実際、野菜販売のテストマーケティングをしたところかなり好評で、八千代産の野菜を使ったレストランをやってみたいと思うようになったんです」

URでは、多様な世代がいきいきと暮らせる「ミクストコミュニティ」の実現を目指しており、若い世代や子育て層からシニアまで、すべての団地住民が集まり、交流できる場が求められている。さらに、米本団地が抱えていた食やコミュニティの問題、そして地域が抱えているフードロスの問題……。いくつもの課題が結びついて、プロジェクトの構想は固まっていった。

NEIGHBOR FOOD PLACEでは、八千代産の旬の野菜を使ったメニューが楽しめるほか、産直野菜の販売や、団地住民にお弁当やお惣菜を届ける「旬・食菜便」、自分のおすすめメニューを誰かにごちそうする「美味しいシェア」といった取り組みも行っている。

「運営はわっかさんにお願いしていますが、私たちが目指しているコミュニティづくりとも重なる部分は大きい。お互いの事業を組み合わせることで、米本団地や地域を、もっとよくできるんじゃないかって。これまで外に行けなかった人たちや、家から出ても車で駅前に行って終わりだった人たちが、ここに立ち寄ることで、きっと何かが生まれると思うんです」

NEIGHBOR FOOD PLACEがハブとなり、さまざまなヒト・モノ・コトが出会い、新たな交流が生まれる。「サードプレイス」よりも、もっと自宅の近くにあって気軽に立ち寄れる、新しい居場所になることを目指している。

お客さんの中からもプロジェクトの担い手が生まれてほしい

「昭和40年代に建てられた団地って、緑豊かで、広い敷地の中に建物がゆったり建っていて環境がいいんです。しかも米本団地は、中央に歩行者専用のメインストリートがドーンと抜けている。そんな団地って、なかなかありません。日中は、クリーンメイトという清掃スタッフが団地内のいたるところで作業をしていて見守りの役割も果たしてくれるので、お子さんを遊ばせていても安心ですし」

団地のメインストリートに面した広い店内は、低いテーブルで構成され、緩やかに区切られているのが特徴。昼にはお年寄りがランチを食べて、カフェタイムには子育て中のママがコーヒーとケーキで休憩、夕方にはお惣菜を買いに来る主婦がいて、夜はちょっと一杯お酒も飲める。あらゆる世代の人が居心地よく、さまざまな過ごし方ができるように工夫を凝らしている。

「ひとりで来たお客さんは窓際のカウンターに座って、スタッフと話したい人はU字型のカウンターに、また家族連れはソファ席や靴を脱いで上がれる小上がりに。本棚で仕切られた奥のスペースで、パーティをするのもいいですね。高齢者の方が多いので、オシャレだけれど敷居が高くなりすぎないように意識しました」

今後は、飲食スペースはもちろん、店舗前の屋外空間を活用したコミュニティイベントやワークショップなども企画していきたい、と野村さん。

「団地の中の人はもちろん、外の人にも使ってもらって、NEIGHBOR FOOD PLACEをきっかけに、団地に住みたいという人が増えてくれたらいいですよね。また、施設の企画者の立場でいえば、持続的に事業を成り立たせていくこと。いつか、お客さんの中からもプロジェクトの新しい担い手が生まれて、さらに新たな輪が広がっていく。そんな循環が生まれたら最高ですね」

野村

野村(のむら)

日本総合住生活株式会社 社員

日本総合住生活株式会社 社員。UR団地を管理している日本総合住生活で新規事業開発を担当。ミクストコミュニティの実現に向けて日々奮闘中。

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