八千代には、誰かのために
頑張っている人たちがたくさんいる
2022年5月にオープンしたNEIGHBOR FOOD PLACEで店長を務めるのは、かつて八千代市の村上団地内にあったコミュニティレストランの立ち上げ・運営にも関わっていた竹本美奈さん。本人ですら「こんなにうまい話があるんだ」と驚く、店長になるまでのストーリー、そして八千代という地域への想いを聞きました。
閉店したからといって、すぐにさよならするのは嫌だった
「祖父母と一緒に育ったこともあって、おじいちゃんやおばあちゃんが大好きなんです。村上団地のお店のお客さんにも娘や孫のようにかわいがってもらいましたし、ときには私も一緒に席に座っていろんな話をしました。いつの間にかそれが、だんだん見守り活動のようにもなっていって」
村上団地内の商店街の一角に、コミュニティレストランがオープンしたのは、2014年のこと。当時竹本さんが勤めていた食品メーカーの新規事業としてスタートし、地域に住む高齢者のために栄養バランスのとれたメニューを提供するほか、テイクアウトや宅配なども行っていた。
残念ながら2019年に閉店してしまったが、八千代とのつながりをなくしたくなかった竹本さんは、「何かできることはないか」と市の社会福祉協議会に連絡。米本団地にオープンしたコミュニティスペース「ほっこり」で、お年寄りのための栄養相談を始めることになった。
「閉店が決まったとき、常連さんたちから『私たちはこれから、どこへ行けばいいの?』と言われてしまって……。悲しかったけれど、それだけ近い関係になれたというのが素直にうれしくて。せっかくご縁があってよくしてもらったのに、お店が閉店したからといって、すぐにさよならするのは嫌だったんです」
それからは、会社に勤めながら週に1回、米本団地に通う日々。村上団地でのプロジェクトも一段落して、やりたいことが見えなくなって悩んでいた時期に、NEIGHBOR FOOD PLACEの運営を行う宮本亜佳音さんから、「店長をやってみない?」と声をかけられたそう。
「人と接するのは好きだし、料理も好き。でも、またお店を閉めることになったら地域の人たちを悲しませてしまうと思って、すぐに『はい』とは答えられませんでした。でも、亜佳音さんの想いや、地元の野菜を地域の人に届ける活動がすてきだなと感じて、やってみようと決めたんです。米本団地には1年間通っていたので、地域のおじいちゃんやおばあちゃんとも顔見知りだし、以前と同じように働けるなんて本当に恵まれている。今では『こんなにうまい話があるんだ』と驚いています(笑)」
NEIGHBOR FOOD PLACEは、団地の中の大きなリビング
周辺には飲食店が少なく、団地内には休憩できる場所もないことから、オープン前から注目を集めていたNEIGHBOR FOOD PLACE。かつて竹本さんが関わっていたお店と比べても席数は多く、かかるプレッシャーも大きいという。
「いろんな人が一同に集まって、同じ時間を共有できる、“大きなリビング”のようなお店にしたいんです。一人暮らしのお年寄りが知り合いとおしゃべりしながら食事ができたり、幼稚園にお迎えにきたママさんがお茶を飲んでいたり。子どもを見て、おばあちゃんたちが『かわいいね』なんて話している、そんな関係性ができるのが理想ですね」
お客さんも楽しいし、働いている人も楽しい。来たいときに気軽にふらっと寄れて、いつも誰かがいる、みんなための新しい居場所を目指している。ちなみに、NEIGHBOR FOOD PLACEのスタッフによれば、竹本さんは「団地のおじいちゃん、おばあちゃんたちのアイドル」。オープン準備中にも、顔見知りの高齢者がわざわざ開店祝いを持ってきてくれるほど。
「もうアイドルっていう年でもないんですけど、お客さんの年齢層を考えると、まだまだ大丈夫……ですかね? 最初はなかなか難しいかもしれませんが、気になったら、とにかく一度お店に入ってきてほしいんです。そうしたら必ず、顔見知りのように『こんにちは、今日はどうしたの?』って話しかけるので。みんなからは『人との距離感が近すぎる』って言われるんですけど(笑)、徐々に信頼関係をつくっていくことで団地の雰囲気も明るくなると思いますし」
野菜を野菜で食べる!? 産地直送を超えた“畑直送”
NEIGHBOR FOOD PLACEの看板メニューは、八千代野菜をふんだんに使った「おばんざい定食」。2種類から選べるメイン料理に、3種類の小鉢と季節の野菜がとれる大きなサラダ、さらにご飯とお味噌汁がセットになったボリュームたっぷりの一品で、ランチタイムに提供している。
サラダのドレッシングにも八千代産のにんじんを使っていて、竹本さんいわく「野菜で野菜を食べる」イメージ。ほかにも、同じく八千代産のパクチーをたっぷりのせた「パクチーつけ麺」も人気だ。
「私たちの想いに賛同いただいたたくさんの農家さんのご協力があって、NEIGHBOR FOOD PLACEでは、八千代の新鮮な野菜を新鮮なうちに調理して、地域のみなさんにおいしく食べてもらえます。産地直送どころか畑直送、そんなお店ってなかなかないですよね」
定食のメニューや店内で販売する野菜は、そのとき旬の野菜を一番栄養価の高い状態で提供できるよう、地域と農家をつなぐ八百屋「ヤオマル」と連携して、生産者と直接連絡をとりながら決めている。「農家さんとの距離も近いので、まだまだいろんなことができそう」と話してくれた竹本さんだが、実は店のオープン後まもなく産休に入ってしまうそう。
「団地のおじいちゃんやおばあちゃんも、子どもが生まれるのを楽しみにしてくれているので、早々に復帰しないといけないですよね。もし、子どもが保育園に入れなかったら、ここでみんなに育ててもらおうかな。子連れで働けるなんて最高だし、いろんな人とふれあいながら育てたら、きっと強くていい子になると思うんです(笑)」
関わっていたレストランが閉店したことをきっかけに、米本団地との縁が生まれ、また新たな出会いにつながっていく。竹本さんがここまで八千代に惹かれる理由は、とにかく地域の人があったかいから。
「NEIGHBOR FOOD PLACEに関わる農家さんやスタッフはもちろん、団地の中にも地域のためにいろいろな活動をしている人がいるし、行政も健康寿命の延伸に力を入れている。八千代には、誰かのために何かを頑張っている人たちがたくさんいるんです。仕事をきっかけに、自分の住んでいる地域よりも深く関われる場所に出会えるなんて、すごいこと。最近では、いつか本当に八千代の住民になっちゃったらどうしよう、なんて話しています(笑)」
竹本美奈(たけもとみな)
NEIGHBOR FOOD PLACE 店長
栄養士。高齢者施設での調理、大手食品メーカー直営飲食店舗で副店長を経験したのち、八千代市内で野菜を使い切る料理教室や、シニア向けの栄養相談なども行ってきた。NEIGHBOR FOOD PLACEの店長として地域振興と農業振興に力を注ぐ。