米本団地に生まれた、
つくる人も食べる人も幸せになるコミュニティ
NEIGHBOR FOOD PLACEで扱う野菜を生産しているのは、八千代市でいちごを中心に季節の野菜を栽培する「周郷農園直売所 ピアッツァ」の周郷文雄さん。荒れてしまった田んぼや畑を地域のみんなで再生する「かえるの会」など、八千代の農業のこれから、そして米本団地で目指す、新しい食のコミュニティづくりについて聞きました。
地域の田んぼや畑が青々としていればそれでいい
「今うちの農園だけで年間6000人のお客さんがやって来ますが、どうしても入れない人が出てしまうんです。そんなときに『あそこがいいよ!』って紹介してあげられたら、みんなが助かるし、また来てもらえる。だから10万人ぐらいの規模になるまで増やして、八千代を“いちご狩りの秋葉原”にしたいんだよね」
周郷農園は、地面から1メートルほどの高さでいちご狩りができる「高設栽培」。年配の人や車椅子の人でも摘みやすく、園内は親子連れがベビーカーで入れるほどゆったりしたつくりで、土日は数ヶ月先まで予約が埋まるほど人気だ。
今から10年ほど前、周郷さんは仲のいい同世代の農家仲間と、地域の田んぼをみんなでつくる「かえるの会」を結成した。農家が減り、田んぼが荒れてきたのをどうにかしたいという思いから始めたもので、高額な機械を分担して購入するほか、農作業や経理などを共同で行っている。
「機械を借りるといくらで、オペレーターはいくらと金額を決めて、赤字になりそうな年は『賃金1割カット!』なんて言って。楽しみがないと続かないから、儲かったら旅行に行こうっていってね。まだ1回しか行ったことないけど(笑)」
周郷さんが就農したのは、昭和40年代の半ばのこと。当時、地域に70軒ほどあった農家は、今ではわずか数軒にまで減ってしまった。また、農業は続けているものの、夫婦が食べられるくらいに縮小して、子どもたちは働きに出るというケースも多い。
7年ほど前には、そうした農家から土地を借り、かえるの会の野菜部も設立。地元の主婦を中心に、収穫や袋詰め作業を行うパートやボランティアを組織化して、現在では、田んぼ3.5ヘクタール、畑2.5ヘクタールを手がけるまでに拡大した。
「正直なところ、あんまり儲かってはいないんです。でも、この仕組みを組合にできれば、今やっている米や野菜の仕事も、その人たちが引き継いでくれる。だから、あと10年は死ねない。後世に残るかどうかは別として、この地域の田んぼや畑が青々としていればそれでいいや、っていう道楽ですよ」
日本の野菜は安すぎる!? “再生産できる価格”とは
「野菜の値段がどんどん安くなっていて、食っていけないんだから後継者がいないっていう、簡単な話。たぶんこれからも、そういう状況は続くでしょう。だからいかに合理化して、値段に見合うような農業を続けていけるか、次の世代をつなぎ止められるかにかかっています」
だからこそ「地域営農が重要だ」と周郷さん。農家をやりたいという人たちに手を上げてもらうためには、共同で作業場をつくったり機械を所有したり、もちろん賃金もきちんと払えるシステムが必要になる。
「昔は『ここは俺の土地だ』っていう意識があったけど、何もつくっていない土地なんか誰のものでもないんだから、つくりたいやつがつくればいい。いちご狩りの10万人と同じで、いろんな人が農業に参画できるようになったらいいですよね」
最近では、募集をしているわけでもないのに、農業を始めたいという人や会社が次々と、周郷さんのところに相談や研修にやって来るようになった。
「よく言うんだけど、再生産できる価格設定。天井知らずに値段を上げろっていうんじゃなくて、農家が普通の生活ができて、種代や肥料代が残って、来年もまた農業ができる、そういう値段でいいと思うんです。今、日本の食糧自給率は6割くらいだけど、農村が豊かになれば、よその国に頼らなくても済むはずだから」
かつては、野菜を売れるところは市場しかなかったため、農家は組合をつくって、大きなロットで出荷をしていた。そのため、仮につくりすぎて野菜が余ってしまっても、手間やコストを考えると捨てたほうがいい、となってしまう。
「流行りの言葉でいえば『フードロス』。規格外の野菜を安く売ると、きれいな野菜が売れなくなっちゃうと考える農家も多いんです。その発想を変えて、どうせ形が崩れているんだから、半値でレストランに卸すとか、お惣菜に加工するとか、活かせる方法を考えたほうがいいよね」
地域のぶんがまかなえる、顔が見える範囲のコミュニティ
農家には生産する能力はあるけれど販売のノウハウがない。一番の問題は、どう売るか。NEIGHBOR FOOD PLACEは、周郷さんにとっての新たなチャレンジでもある。
「宮本さんみたいな人がいなかったら、こんなことにはならなかった(笑)。そうやって、正しいことを考えている人がひとりいればどうにかなるし、共感してくれる人もだんだん増えてくる。これからも一緒に、面白いことができたらいいよね」
目指しているのは、自分たちのつくった野菜を喜んでくれる人の輪を、少しずつ広げていくこと。あまり大きくしすぎず、まずは地域のぶんがまかなえるくらいでほどほどに、次はまた違う場所で……というように、生産者と消費者の顔が見える範囲のコミュニティがいくつかできるのが理想だ。
「つくる人がいなければ食べられないって言うけれど、農家の人だって、食べてくれる人がいなければ、つくれないんだから。まあ、うまく言えないけど、つくる人も食べる人もフレンドリーなのが一番いいよ。そうしたら、値段の決め方も『このくらいでいいよね』『いくらだったら来年つくってくれる?』という感じになるでしょう」
周郷さんが畑を歩いていると、野菜の収穫作業をしているおばちゃんたちがニコニコしながら手を振ってくれるという。
「やっぱり収穫の喜びがあるし、自分で働いてお金が稼げたらうれしい。そういうシステムさえつくれれば、農業もけっこう楽しいんですよ。そうだ、日本人って『○○狩り』が好きだから、いちご狩りにじゃがいも狩り、枝豆にとうもろこしに落花生……。季節ごとの野菜が楽しめる『ガリガリ園』をつくるっていうのは、どうかな?」
「スーパーで買った大根と、周郷農園直送の大根では、全然持ちが違う!」と、米本団地にもファンが増えつつある周郷さんの野菜。最後に、こんな質問をしてみると……。
「八千代の野菜のいいところ? 別にないね、だってどこでつくっても野菜はそんなに変わらないから(笑)。ただひとつだけ言えるのは、肉や魚と違って、野菜は収穫してから食卓に並ぶ時間が短ければ短いほどいい。だから八千代でつくったものを、八千代の人に食べてもらうこと、それが一番だよね」
周郷文雄(すごうふみお)
周郷農園 代表
周郷農園直売所「ピアッツァ」経営。採れたて野菜、イチゴの販売を通じ八千代市の農業振興に力を注ぐ。